高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

湿度60%を超えたらご注意を

高城未来研究所【Future Report】Vol.730(6月13日)より

今週は、八戸、川越、大阪と移動しています。

今年の梅雨は、例年に比べてやや遅れてやってきたものの、今週は滞在していた青森から関西まで全国的に重い雲や雨模様が続いています。

先週30度超えていて晴天続きだった鹿児島は、梅雨前線が停滞して九州南部全体に土砂災害厳重警戒が出ています。
気象庁の発表によれば、今年の梅雨は短期間で集中的に雨が降る傾向が強いとのことで、各地で大雨への警戒も呼びかけられています。

そしてこの時期、毎年多くの人が訴えるのが季節痛や湿気による体調不良で、特に僕が強調したいのは「カビ」への注意です。
日本の住宅は気密性が高く、梅雨時はどうしても換気が不十分になりがちで、その結果、浴室やキッチン、クローゼットの奥など、目に見えない場所でカビが静かに繁殖しています。

近年の疫学研究では、住居や職場でカビや湿気に長期曝露された成人が、不眠症状や夜間覚醒、日中の強い眠気を発症するリスクが有意に高まることが示されており、北欧5か国で一万人以上を10年間追跡した大規模コホート研究では、室内のカビ臭や可視カビにさらされた群で、不眠の新規発症が有意に増えたという結果が報告されています(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒の新規発症比が1.9倍)。

メカニズムとしては、カビが産生するマイコトキシンやβ-グルカンといった物質は、炎症性サイトカイン(IL-6やTNF-αなど)を誘発し、全身性の炎症を引き起こします。この炎症反応が季節痛や不調を引き起こし、脳に影響を与えることでイライラしたり、睡眠構造が浅くなって中途覚醒が増えたり、熟睡感が得られなくなったりするのです。

さらに、カビの代謝産物である揮発性有機化合物(MVOCs)は、中枢神経系を刺激し、睡眠の深い段階(N3)への移行を阻害することが分かっています。
つまり、夜しっかり寝たはずなのに、朝起きても疲れが取れない、日中に原因不明の倦怠感や頭重感が続く。
こうした症状の裏には、実はカビが関与している可能性があるので、この時期は注意が必要なのです。

僕自身、全国を移動してさまざまなホテルや民泊に滞在する中で、適宜簡易湿度計を持ち歩いていて、さらに部屋に入った瞬間の「カビ臭」に敏感になり、ほんのわずかな匂いでも翌朝の目覚めや体調に明確な違いが出ることを実感しています。
特に、築年数が古い建物や、換気が不十分な部屋では、短期間の滞在でも集中力の低下を感じることが少なくありません。

ところが、今週大阪で開催されている「日本抗加齢医学会総会」では、誰一人としてカビの話をしていません。
会場では新しいサプリメントや再生医療、もはや使い回し感が否めない腸内環境やミトコンドリアの話題を掲げる一方で、日常生活に直結する「住環境のカビ対策」については、まるで存在しないかのようにスルーされています。

日本の抗加齢学会に初めて参加してみましたが、あまりの米国との違いに驚きを隠し得ません。
米国の同様の学会では、環境医学のセッションが必ず設けられ、室内空気質(IAQ: Indoor Air Quality)と健康寿命の関係について活発な議論が交わされています。
特にカビとマイコトキシンの問題は、慢性疲労症候群やブレインフォグ、さらには認知症リスクとの関連まで含めて、最重要トピックの一つとして扱われているのです。

一方、日本では「(かなり古い)食事法」や「(スポンサーの意向を汲んだ)サプリメント」といった従来型のテーマが中心で、住環境の見直しやカビ対策はほとんど話題に上りません。
栄養療法や先端医療の先生たちも数多く参加なさっていますが、あまりのギャップに正直びっくりしてます。

いったいなぜ日本の医学界は、この最も根源的な問題から目を背けるのでしょうか。
それは、日本の医療システムが、病気の「原因」ではなく「結果」としての「症状」を抑えることを目的とした「対処療法」に最適化されているからです。
これは、多くの栄養療法や自由診療も他ではありません。

栄養療法の専門家でさえ、個人の「体内環境」には目を向けますが、その個人が日々呼吸し、生活している「体外環境」との相互作用という、より大きな視座が欠けていると感じます。
これでは、まるで穴の空いたバケツに、高価な栄養素という名の水を注ぎ続けているようなものです。

いまからちょうど1年前、今までにないヘルスケアサービス「8weeks.ai」をスタートしました。
これは、単にオンラインで健康相談に乗るというものではありません。
参加者一人ひとりの詳細なライフログ(睡眠、食事、活動量)に加え、生活環境、職業、人間関係、さらには人生の目標までを包括的にヒアリングし、医師や専門家チーム、そしてAIが複合的に分析して、その人だけの「最適な生き方」を提案する、いままでにないパーソナライズド・ヘルスケアサービスとしてはじめました。
嬉しいことに多くの方にご参加いただきまして、今週だけでも500人以上の方に僕からオンラインアドバイスを行っておりますが、データや送られてくる相談内容は、まさに現代医療が見捨てた「原因不明の不調」のオンパレードです。

実際、8weeks.aiの利用者から寄せられる相談の中で、慢性的な不眠や日中の強い眠気、原因不明の体調不良について「住環境のカビ」を疑い、住まいの換気や除湿、カビ対策をアドバイスしたところ、劇的に症状が改善したという報告が相次いでいます。
睡眠障害と慢性疲労を訴える利用者の湿度ログを報告いただき解析すると、寝室湿度が平均68%を超える日が週4日以上あるケースが約6割。
室内CO2濃度は夜間2000ppmを超え、揮発性有機化合物総量(TVOC)も基準値の2倍という方が少なくありません。
こうなると原因が生活習慣や栄養だけではないことは明らかで、環境医学的アプローチの欠如こそ、日本のアンチエイジング界の最大の空白領域だと痛感します。

これでは良くなるものも良くならないはずです。
どんなに高価な医療やサプリメントを取り入れても、日々吸い込む空気がカビや化学物質で汚染されていれば、身体は本来のパフォーマンスを発揮できません。
特に解毒能力が低い方は要注意。
日本の医療やヘルスケア業界が本当に人々の健康を考えるのであれば、もっと「住環境」という視点を重視すべきだと強く感じます。

ちなみに今年の「日本抗加齢医学会総会」テーマは、「抗加齢医学4半世紀 頑張ろうぜ!」ですが、いったいなにを頑張るのか、会場に出向いても全く判りませんでした……。

みなさま、湿度60%を超えたらご注意を。
頑張っても解決しません。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.730 6月13日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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